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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)7607号 判決

原告(反訴被告) 株式会社エリートゴルフ

右代表者代表取締役 羽生ヒサ

右訴訟代理人弁護士 浅野政浩

原告(反訴被告)補助参加人 染谷育史

右訴訟代理人弁護士 白石道泰

被告(反訴原告) 家徳ひろ子

右訴訟代理人弁護士 小川彰

同 島崎克美

同 船越豊

同 大原明保

主文

一、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)との間において、原告(反訴被告)が別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

二、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、訴外株式会社袖ケ浦カンツリー倶楽部に対して右ゴルフ会員権の名義を原告(反訴被告)に、仮に原告(反訴被告)の名義変更がなされないうちに右ゴルフ会員権が原告(反訴被告)から他に譲渡された場合には、これを取得した第三者名義に、変更する旨の名義変更承認手続をせよ。

三、反訴原告(被告)の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、本訴及び反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、本訴請求の趣旨

1. 主文第一、二項同旨

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、本訴請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の本訴請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

三、反訴請求の趣旨

1. 原告は被告に対し、別紙ゴルフ会員権証書目録一ないし四記載の各証書を引き渡せ。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

四、反訴請求の趣旨に対する答弁

1. 被告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一、本訴請求原因

1. 原告は、ゴルフ会員権の売買及び仲介を主たる目的とする会社である。

2. 訴外国際航空測量株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和五九年三月一五日、補助参加人から八〇〇万円を借り受け、さらに訴外会社が石井重司に対して負っている五〇万円の債務について、補助参加人に立て替え払いさせ、補助参加人に対して合計金八五〇万円の債務を負担した。

3. 訴外会社の代表取締役である仁神淳は、同年三月一五日、被告代理人であることを示して補助参加人との間で、次の譲渡担保設定契約(以下「本件譲渡担保契約」という。)を締結した。

(一)  担保の目的物 別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)

(二)  被担保債務の範囲 右2記載の債務を含む訴外会社の補助参加人に対する一切の債務

(三)  極度額 八五〇万円

(四)  換価処分の約定 弁済期または訴外会社の振り出しにかかる手形・小切手が不渡りになるなどの事由により訴外会社が期限の利益を失ったりして、訴外会社が債務の全部を即時支払うべき場合にもかかわらず、これを支払わないときには、補助参加人は本件会員権を他に譲渡して、換価処分することができる。

4. 仁神淳は補助参加人との間で、本件譲渡担保契約を締結する際、被告の署名・実印の押捺のある、譲受人氏名欄白地の別紙ゴルフ会員権証書目録一ないし四記載の各証書(以下「本件会員権証書」という。)、譲受人氏名欄白地の譲渡証書、ゴルフ会員権譲渡通知書、名義書き換え申請書、受任者欄白地の名義変更手続き委任状及び名宛人欄白地の印鑑証明の有効期間が徒過した場合には、新規のものに交換する旨の念書等を、被告の印鑑証明とともに一括して補助参加人に引き渡したから、被告代理人である仁神淳は、訴外会社がその債務を履行しなかった場合には、本件会員権が換価処分され、転々譲渡されること及び将来これを正当に取得した者に対し、中間取得者を省略して直接名義書き換え手続きに応じることを、被告の代理人として予め承諾した。

5. 被告は仁神淳に対し、同年三月八日、訴外会社が金融業者から融資を受ける場合には、その債務の担保に供するため、右債務の債権者、被担保債権額及び被担保債権の範囲を特定せずに、本件会員権に譲渡担保権を設定することを承諾し、その設定契約を締結する一切の代理権を授与した。

6. 仮に、被告が仁神淳に対して5記載の代理権を授与していないとしても、補助参加人は仁神淳が被告から右代理権を授与されたと信じる正当の理由がある。

すなわち、

(一)  被告は仁神淳に対し、右同日、訴外会社が金融業者から融資を受ける場合、被担保債権額及び被担保債権の範囲を一〇〇万円とする限度で本件会員権に譲渡担保権を設定することを承諾し、その設定契約を締結する代理権を授与していた。

(二)  仁神淳は補助参加人に対し、右一〇〇万円の限度を超えて、3、4記載の行為をなした。

(三)  被告は仁神淳に対し、右同日ころ、本件会員権の名義書き換えに必要な一切の書類、つまり本件会員権証書、譲受人氏名欄白地の譲渡証書、ゴルフ会員権譲渡通知書、名義書き換え申請書、受任者欄白地の名義変更手続き委任状及び名宛人欄白地の印鑑証明の有効期間が徒過した場合には、新規のものに交換する旨の念書等及び被告の印鑑証明書を授与し、仁神淳はこれを所持して補助参加人に示したうえ、補助参加人との間で、右二の契約をなした。また、補助参加人は仁神淳と右契約をなす際、被告に対して本件会員権についての担保提供意思の有無を確認している。

7. 被告が仁神淳に対し、右同日、右の代理権を授与する際、被担保債権額及び被担保債権の範囲については、少なくとも一〇〇万円の範囲について本件会員権に譲渡担保権を設定することを承諾し、右書類を交付したから、被告と補助参加人間で右金額を被担保債権額とする譲渡担保設定契約が成立した。

8. 訴外会社は、昭和五九年四月一一日、その振り出しにかかる小切手を不渡りにしたため、補助参加人に対する前記債務について期限の利益を失ったが、その債務全額を返済できなかったため、補助参加人は本件会員権に対する換価処分権に基づきこれを即時売却処分することとし、同月一三日、原告に対し、これを八五〇万円で売却したうえ、前記本件会員権証書等の書類を一括して交付し、原告は本件会員権を買い受け、右書類を受け取った。

9. 本件ゴルフ場を経営する株式会社袖ケ浦カンツリー倶楽部の本件会員権についての会則及び細則によれば、本件会員権の名義変更をするには、現名義人から同社に対する名義変更承認の申し出をなしたうえ、その承認を受け、その後、新登録者が同社に対して所定の名義変更料を支払うという手続きが必要である。しかるに、被告は右名義変更承認手続きに協力しないばかりか、同社に対して本件会員権の無断売買を理由にして名義変更の停止を求め、原告が本件会員権を有することを争っている。

よって、原告は被告に対し、原告が本件会員権を有することの確認及び原告または原告から本件会員権の譲渡を受けた者が株式会社袖ケ浦カンツリー倶楽部に対して名義変更手続きをなす場合、被告が右名義変更承認手続きをなすことを求める。

二、本訴請求原因に対する認否

1. 同1は認める。

2. 同2、3はいずれも知らない。

3. 同4のうち、原告主張の書類に被告の実印の印影が存することは認め、それが被告が押捺したものであること及びそれらに被告が署名したことは否認し、その余はいずれも知らない。

4. 同5は否認する。

5. 同6のうち、(一)は否認し、(二)は知らない。(三)のうち、被告が仁神淳に対し、本件会員証書、印鑑証明書を預けたこと及び仁神淳が当時これを所持していたことは認め、仁神淳が補助参加人に対し、譲受人氏名欄白地の譲渡証書、ゴルフ会員権譲渡通知書、名義書き換え申請書、受任者欄白地の名義変更手続き委任状及び名宛人欄白地の印鑑証明の有効期間が徒過した場合には、新規のものに交換する旨の念書等を授与し、仁神淳は本件会員証書、印鑑証明書及び右譲渡証書等を所持して補助参加人に示したうえ、補助参加人との間で、(二)記載の契約をなしたことは知らない、その余は否認する。

6. 同7のうち、被告が仁神淳に対し、同記載の書類を預けたことは認め、その余は否認する。

7. 同8は知らない。

8. 同9は認める。

三、反訴請求原因

1. 被告は本件会員権を有し、本件会員権証書を所有していた。

2. 原告は本件会員権証書を所持している。

よって、被告は原告に対し、所有権に基づいて本件会員権証書の引き渡しを求める。

四、反訴請求原因に対する認否

1. 同1のうち、被告が昭和五九年四月一二日まで本件会員権を有し、本件会員権証書を所有していたことは認める。

2. 同2は認める。

五、反訴抗弁及びその認否

本訴請求原因及びその認否と同じ。

六、補助参加人の主張

1. 被告は仁神淳に対し、昭和五九年三月八日、債権者、被担保債権額及びその範囲を特定せずに、訴外会社が金融業者から融資を受ける場合には、本件会員権を右借り入れ金債務の担保として譲渡担保に供することを承諾し、その設定契約の締結に関する一切の権限を授与した。

2. 仁神淳は、補助参加人が訴外会社に対し、同月一五日、八〇〇万円を貸し渡した際、被告の代理人として補助参加人との間で、訴外会社の右借り入れ金を含む八五〇万円の債務を被担保債権額とし、弁済期である同年四月一三日に右債務を返済しなかったり、訴外会社振り出しの手形、小切手が不渡りになったりした場合には、期限の利益を失い、その所有権が確定的に補助参加人に移転するという約定のもとで、本件会員権について譲渡担保設定契約を締結し、本件会員権証書及び本件会員権の名義書き換え手続きに必要な書類一切を補助参加人に交付した。

3. 訴外会社は、昭和五九年四月一一日、その振り出しにかかる手形を不渡りにし、右2の債務の期限の利益を失い、補助参加人は、同月一二日、本件会員権の所有権を確定的に取得した。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、被告が昭和五九年四月一二日まで本件会員権を有し、本件会員権証書も所有していたこと、被告が仁神淳に対し、同年三月八日ころ、当時被告が所有していた本件会員権証書、被告の印鑑証明書を預け、仁神淳が当時これを所持していたことは当事者間で争いがない。

右当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。〈証拠判断省略〉。

1. 被告は、昭和五九年三月七日、かねてから母家徳キミが経営する飲食店の顧客として知り合い、結婚の申し込みも受けていた仁神淳から、同人経営の訴外会社の資金繰り等の必要から一〇〇万円を借用したい旨の申し入れを受け、翌八日、仁神淳に対し、右金員を貸し渡す代わりに、同人が他から借り入れをするための担保に供する目的で本件会員権を貸し渡すことを承諾し、同人とともに、本件会員権証書を預けていた銀行に行ってこれを受け取ったうえ、同人に対し、同年四月五日に返還し、名義変更はしないことを約して、本件会員権証書を渡し、かつ同日右担保提供に必要な印鑑証明書も取り、実印とともにこれを交付した。そして、仁神淳は被告に対し、訴外会社名で本件会員証書を同年四月五日まで預かり、同日までに間違いなく返還する旨を記載した、同年三月八日付け預かり書と題する書面を作成して交付した。その後、仁神淳は被告に対し、同年四月六日付けで、右返還時期を同月一三日まで猶予して欲しい旨の書面を仁神淳名義で作成し交付した。なお、被告は、本件会員権を昭和四七年三月二四日付けで越村良久から譲り受けとして、袖ケ浦カンツリークラブの理事長の承認を得ている。

2. 仁神淳は、同年三月八日、被告から本件会員権証書、印鑑証明書及び実印を受け取ると、新宿の小山某のもとに行き、そこで本件会員権証書の各裏面及び譲渡証書等に被告の名義で署名をし、被告の実印を押印し、印鑑証明書を交付して、これを担保に五〇〇万円を借り受けた。

3. その後、仁神淳は、補助参加人から金員を借り受け、これで小山某からの借り入れ金を返済し、さらに仁神淳が経営していた訴外会社の他からの借り入れ金五〇万円について、補助参加人に立て替え払いしてもらうこととし、同年三月一五日、補助参加人との間で、本件会員権を担保として、貸主を補助参加人、借り主を訴外会社、連帯保証人を仁神淳、期限を同年四月一三日と定めて八〇〇万円を借り入れ、右五〇万円との合計八五〇万円のうち、利息を控除して八〇〇万円位を受け取った。ところで、補助参加人と仁神淳とは右八五〇万円について、訴外会社に債務不履行があれば、補助参加人は本件会員権を他に譲渡しうる旨を約した。そして、仁神淳は補助参加人に対し、小山某に預けていた本件会員権証書及び印鑑証明書等の書類の外、本件会員権譲渡通知書を被告名義で作成し、被告から借り受けた実印でこれに押印し、補助参加人に交付した。なお、補助参加人は、仁神淳に右金員を貸し渡す際、本件会員権の担保価値を知るため、事前にゴルフ会員権の売買等を取り扱う業者数軒に電話で確認して、九〇〇万円位で取引されていることを知り、右金額の価値はあるものと評価していた。

4. ところで、訴外会社及び仁神淳は補助参加人に対し、右借り入れ金を期限である同年四月一三日に返済することができず、その支払いを保証するために提出しておいた訴外会社の二通の小切手も同年四月一六日不渡りとなった。そして、補助参加人は原告に対し、同年四月一三日、本件会員権を八五〇万円で譲渡し、仁神淳から受け取った本件会員権証書等の本件会員権の譲渡に必要な書類を交付した。

5. しかし、被告は、本件会員権は被告のものであると主張し、袖ケ浦カンツリークラブに対してもその旨通知するなどして、原告からの本件会員権の名義変更手続きに協力しない。

二、右認定によれば、被告は仁神淳に対し、昭和五九年三月八日、同人が他から一〇〇万円の借り入れをなす際の担保として、本件会員権証書、印鑑証明書及び実印を交付したものであり、被告も本件会員権を他から譲り受けてこれを取得し、本件会員権の会員権が一〇〇〇万円位の財産的価値を有し、自由に譲渡されることについて認識していたことからすれば、被告は仁神淳が本件会員権を譲渡担保として用いて、右一〇〇万円を借り入れることをあらかじめ承諾していたものというべきである。このように、仁神淳は被告から授権された本件会員権に譲渡担保を設定する代理権限に基づいて、本件会員権を他に譲渡するための右書類を作成して、譲渡担保権者である補助参加人に交付し、補助参加人は譲渡担保権者の換価処分権能に基づいて、右書類とともに本件会員権を原告に譲渡したことになる。したがって、たとえ、当初から、仁神淳が被告を欺罔して本件会員権証書を詐取する意図があったとしても、被告が瑕疵ある意思表示に基づき右授権をなしたととの問題が生じるに過ぎず、原告が本件会員権を取得できないとする理由はない。なお、右認定のように、たとえ、被告が仁神淳との間で本件会員権について名義変更をしない旨を約していたとしても、譲渡担保に供することを認識していた以上、このような合意は被告及び仁神淳間の内部の問題でしかないというべきである。

このように、被告は仁神淳に対し、一〇〇万円の借り入れ金の範囲で本件会員権証書を交付したのであるから、原告主張のように、被担保債権の範囲については特定していなかったとはいえないので、この点についての原告の主張は採用できない。

そこで、次に、補助参加人である補助参加人が、仁神淳が被告から被担保債権の範囲を特定せずに本件会員権に譲渡担保権を設定するための代理権限を授与されたと信じるについて正当な理由があるか否かを判断する。

ところで、仁神淳が被告の代理人として、本件会員権証書、印鑑証明書及び実印を有していたとしても、なお同人が被告を代理して本件会員権を譲渡担保に供する権限を有するか否かについて、疑念を生じさせるに足りる事情が存する場合には、仁神淳の相手方である補助参加人としては仁神淳の代理権の有無についてさらにその確認手段をとるべきであり、その調査を怠り同人に代理権があると信じたとしても、その信じたことに過失がないとはいえないから、まずこの点を検討する。前記認定によれば、補助参加人は仁神淳との間で、同年三月一五日、貸主を補助参加人、借り主を訴外会社、連帯保証人を仁神淳、期限を同年四月一三日と定めて八〇〇万円を貸し渡しているから、補助参加人は右貸金が被告自身の必要のためではなく、代理人である仁神淳が経営している訴外会社の資金繰りのために必要であることは当然に知っていたと認められ、また本件会員権が右資金の担保とされていることから明らかなように、当時本件会員権はその財産価値は相当高いものと評価されていたにもかかわらず、担保提供者である被告は借り主である仁神淳に同行していないから、補助参加人としては被告が借り主・連帯保証人である仁神淳のために本件会員権を担保提供する事情については十分知りえないことなどからすると、補助参加人としては、直接被告に対して問い合わせるなどして、仁神淳の代理権の有無範囲について調査すべきであり、これを怠った補助参加人が仁神淳に右代理権限があると信じたとしても、特別の事情のない限り、そのように信じたことについて正当理由があったものということはできない。なお、補助参加人は証人として、従業員の鶴田誠一が被告に対して直接電話して、被告が本件会員権を担保提供しているかを確認し、また連帯保証人になって欲しい旨を申し入れたと証言し、前掲証人鶴田も、仁神淳から被告の電話番号を聞き、右の確認をなしたと証言しているが、被告本人尋問の結果によれば、鶴田から被告に対して右内容の電話確認がなされたものと認めることができない。これについては、仁神淳が証人として、この点について、曖昧な証言をしていることからすると、仁神淳が補助参加人から被告に対する電話確認されることを予想し、かねて用意した電話番号に掛けさせたとも考えられるが、仁神淳の代理権限について被告に確認する際、仁神淳から教示された電話番号に掛けてこれを確認するのでは、右のような事態に対応できないことは明らかであるから、このような電話を掛けたからといって、補助参加人に過失がないとすることはできない。したがって、補助参加人が仁神淳に右代理権限があると信じたとしても、これを信じたことについて正当理由があったものということはできない。

以上によれば、被告は仁神淳に対し、本件会員権について、被担保債権を一〇〇万円までの範囲とする譲渡担保設定権限を授与し、補助参加人は右範囲において本件会員権に譲渡担保権を有するに至り、この換価処分権能に基づいて原告に対する売却をなしたものと認められる。なお、補助参加人は原告に対し、右のとおり昭和五九年四月一三日に本件会員権を売却しているところ、訴外会社の補助参加人に対する右債務の弁済期は同日であるから、右売却時点では、履行期は経過していないことになるが、訴外会社または仁神淳は、結局補助参加人に対して同日までに右債務を弁済しなかったのであるから、右売買は有効というべきである。このように、原告は補助参加人から、本件会員権を正当に買い受け、これを有するから、本件会員権証書についても当然その所有権を有することになる。

三、ところで、本件ゴルフ場を経営する株式会社袖ケ浦カンツリー倶楽部の本件会員権についての会則及び細則によれば、本件会員権の名義変更をするには、現名義人から同社に対する名義変更承認の申し出をなしたうえ、その承認を受け、その後、新登録者が同社に対して所定の名義変更料を支払うという手続きが必要であることは当事者間で争いがなく、これに〈証拠〉によれば、袖ケ浦カンツリークラブは、株式会社袖ケ浦カンツリー倶楽部が所有するゴルフ場及びその付属施設の利用の管理運営をしているところ、その会員になるには、所定の様式に従って入会申し込みをなし、同クラブ理事会の承認を得たうえ、所定の入会金(預かり保証金)を納付しなければならず、その会員は年会費を納入して同社所有のゴルフ場及びその付属施設を所定の規則に従って利用でき、入会に際して預託した入会保証金を五年の据え置き期間経過後、退会とともに返還請求でき、また会員は、同クラブ理事会の承認を得たうえ所定の名義変更料(本件会員権の場合は五〇万円)を支払って会員権を他に譲渡できることが認められる。

このような、いわゆる預託金会員組織ゴルフ会員権を目的として、譲渡担保設定契約がなされ、設定者が、譲渡担保権者の換価処分により将来右ゴルフ会員権を取得した第三者のために、その譲渡に必要なゴルフクラブ理事会の承認を得るための手続きに協力することをあらかじめ承諾している場合には、被担保債権の履行期の経過に伴い譲渡担保権者が取得した換価処分権能に基づく第三者への売却によって、ゴルフ会員権は設定者に対する関係では売り渡しを受けた第三者に有効に移転し、右売却のときに被担保債権は、換価額が債権額を超えるときは全額につき、満足を得たことになり、これに伴って譲渡担保関係も消滅し、設定者は、右換価額が譲渡担保債権者の債権額を超えるときはその超過額を譲渡担保権者から清算金として受領することができるが、ゴルフ会員権については債務を弁済してその回復を図る機会を確定的に失い、これを取得した右第三者のために、ゴルフクラブ理事会の譲渡承認を得るための手続きに協力する義務を有するに至るものというべきであり、また、設定者は、譲渡担保権者が清算金を支払うのと引き換えにのみ右義務の履行に応ずるとの同時履行の抗弁権を第三者に対して行使することは許されないと解される(最高裁判所昭和五〇年七月二五日第三小法廷判決民集二九巻六号一一四七頁)ところ、被告が仁神淳に対し、昭和五九年三月八日、本件会員権を譲渡担保に供することを承諾して本件会員権証書、印鑑証明書及び実印を交付した以上、被告は仁神淳が右譲渡担保の被担保債権を弁済しえない場合には、本件会員権が他に売却されることについての認識を有していたものというべきであるから、被告は将来正当に右書類を取得する者に対して名義変更手続きをなすことを承諾していたものというべきであり、被告は原告及び原告から本件会員権を取得した者に対して本件会員権について名義変更承認手続きをなすべき義務がある。そして、被告に右義務があるところ、右認定のとおり、本件会員権について名義変更手続きをなすには、名義変更料五〇万円を支払う必要があり、しかも、ゴルフ会員権の売買及び仲介を主たる目的とする会社である原告(この点は、当事者間に争いがない。)は自ら本件ゴルフ場を利用するためではなく、他に転売するために本件会員権を買い受けたこと、一般的にゴルフ会員権がその財産的価値に着目されて譲渡の対象とされ、原告のようにその売買及び仲介を営業目的とする者が多く存在し右売買取引に介在していることなどからすると、原告が被告に対し、自己に対する右名義変更承認手続きを求めるだけでなく、原告から正当に本件会員権を譲り受けた者に対する右名義承認手続きを求めることも許されると解すべきである。

四、以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由があるので、これを認容し、被告の反訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋武憲一)

〈以下省略〉

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